【特別公開】『禽獣のクルパ -Avalon-』メンバー対談


先日終演したfragment edge No.8『禽獣のクルパ -Avalon-』

ご好評につき完売となった公演パンフレットに収録されていた

フラグメメンバー対談を特別に公開です!

今作にどんな思いを込めていたのか。ぜひ一読くだされば幸いです。




fragment edgeメンバー対談

淡乃晶(代表・脚本・演出)×柳瀬晴日(役者・キャラクターデザイン)×大井克弘(アクション指導)×T(スタッフ)


※一部作品のネタバレを含みます。



Q:1 8作品目の本公演となる「禽獣のクルパ -Avalon-」今回リメイクをするにあたって今の心境をお聞かせください。


淡乃 「3年前 ※1と今の状況が全く違うなというのが正直あって。リメイクと銘打っていますが、新作を創っている気持ちでやっているかな」

柳瀬 「うんうん」

T 「僕は、メンバー加入してから、今回fragment edgeの作品に頭から関わるのが初めてだから、新人研修の気持ち

のような、フレッシュな気持ちで臨んで…、ふふっ(笑)」

淡乃 「顔が引きつっております(笑)」

全員 「(笑)」

淡乃 「でも、そうだよね。このメンツになってから初めての本公演やるよね。そういう意味でも、フレッシュというか、知っている作品というより、知らないものを手探りで探しているような感覚かもね」

T 「リメイクと言いつつ、内容は結構変わっているからね」

柳瀬 「今出来立てホヤホヤ(の台本)を最後まで読ませてもらって。ユリネさんを演じるのは2回目なんですけど。稽古の段階から、『えっ、わからんわからん』って気持ちが今はあって。初演のユリネさんは、最初のシーンから結構悪意を持って来てる感じで演じていたんだけど、今回は何にも知らないことが多くて。自分が仕掛けたことじゃないことが多過ぎて。恋心と悪意とのバランスが難しいなぁと思って。本当に新しいキャラクターをゼロから作っている気持ちではあるかな。それに3年前はメンバーではなかったし」

大井 「ああ、そうだよね」

淡乃 「当時は僕と元メンバーの今里君の2人しかいなかったから。大井さんはどう?」

大井 「俺はお客さんとして初演のクルパを観たってのがあるから、これぞフラグメ!そして、これがクレイジーサイコレズか!と(笑)」

全員 「(笑)」

大井 「でも、(今回で)俺が受けた印象は、極限状態という状況下を、美しく魅せることが出来るなぁ、と思った。Avalonを読ませてもらって、再演と言っているけど、新作だな!っていう印象の方が強いかな」

柳瀬 「たしかに。当時は団体的に勢いとノリ、そして作品自体もその感じだったけど、今は理性的な脚本になったかな(笑)」

淡乃 「そうだね、でも初演の勢いとノリっていうのは、やっぱり引っ張られる部分があって。初演の頃の雰囲気も残しつつ、僕らが出した答えの一つ、ということで観てもらえるのが一番良いのかな?」

大井 「初演を観てるお客様には、そう来るか!って思ってもらえるところは沢山あるよね」

淡乃 「まあ、初演を観た人も『これ知らない』ってなると思う(笑)」

大井 「本当に新作だよね(笑)」

淡乃 「観たことあるし、既視感はあるけど、『これは知らないな』って、とても感じるだろうね」



Q:2 2018年から外部活動が多くなったfragment edgeですが、久々にホームに戻ってきてどうですか?


淡乃 「居心地が良いですね、やっぱり」

大井 「だね」

淡乃 「fragment edgeは基本的に、みんなが居る前でいうのもアレなんだけど、僕のやりたいことしかやっていないし、やりたい放題でしか創作意欲が湧かないから(笑)」

柳瀬 「せやね」

淡乃 「自分の実験場に戻って来て、落ち着いているかなぁ、というところでありますかね。みんなはどう?」

柳瀬 「やっぱ、fragment edgeはこうでなきゃっていうのが、尖った部分だよね。本公演は」

淡乃 「ほう。なるほど」

柳瀬 「だって、『QuartZ』※2と『クルパ』だよ?」

淡乃 「まあ、激しい2タイトルになりましたよねぇ」

大、T 「うんうん」

柳瀬 「外部でやる作品は優しいじゃないですか、世界に」

淡乃 「世界に優しい(笑)」

柳瀬 「淡乃君の世界に迎合しようとする、残された社会性が見えるんだけど」

淡乃 「(笑)そうですね〜。」

柳瀬 「好き勝手やりやがってよう、無茶しやがってこいつ、と思いながら付いて行ってるよね」

淡乃 「無法地帯だよね、作品がね」

柳瀬 「うん」

淡乃 「綺麗なパッケージのくせに、中身はジャンク品ですよ、みたいな」

全員 「(笑)」

淡乃 「でもこのジャンク品、意外と精密な作りで、面白いというか、実に興味深い、みたいな作品だからね」

大井 「ビジュアルとのギャップだよねぇ」

柳瀬 「パッケージ詐欺をしながらね、来てるからね」

淡乃 「元々僕が美少女ゲームが好き、ってところから来ているから。僕の美少女ゲームのパッケージのイメージって、キャラクターが美少女なら中身は自由でいいかなというのがあって」

大井 「なるほどね」

淡乃 「でも、その文化が演劇のお客様には無いから」

柳瀬 「パッケージ詐欺(笑)」

淡乃 「詐欺ではないけど(笑)。度肝を抜かれるというより、こんな感じなんだね、意外、と思われる方が多い」

T 「まあ、結構泥臭い感じはするよね。キラキラした都会から、田舎に帰ってきた泥臭さ、みたいな」

全員 「(笑)」

大井 「たしかに、外部では万人受けの作品を創っていた分、ホームでは淡乃君の牙というか、今回はこんな事やる

んだ!良いね!みたいな感じになるよね(笑)」

柳瀬 「うんうん」

大井 「でも、それに惹かれて、うちらやスタッフさんたちが集まってくれてるから、淡乃くんのやりたい事をやってほしいし、それを実現したいな、という気持ちがあるよね」

柳瀬 「そうそう。これが見たかったんだよ!って」

淡乃 「いやぁ、ありがてえなぁ。でも、外部から来た人はビックリするだろうな」

全員 「(大笑)」

柳瀬 「あっ、でも、私、淡乃君の脚本を読んでて、初めて『気持ち悪っ!』って思ったシーンがあるんだよね」

淡乃 「例のシーンですか」

柳瀬 「追加された、猫宮の過去シーンですね」

T 「ほうほうほう」

柳瀬 「だから、初めての感覚を味わうんだろうな、舞台上で演じた時に」

淡乃 「どんなシーンかはまだ言えないけどね」

柳瀬 「うん。でも、多分気持ち悪いと感じると思う」

淡乃 「だろうね。今回は現実から逃げないだったり、フィクションに収めてもいられないなぁっていう気持ちがあって書いているんだよね。そういう踏み込んだ事が出来るのも、ホームならではだからね」

大井 「うん」

淡乃 「外部で書いていると、『これは行き過ぎた表現だよね』って削られたりしちゃうからね」

柳瀬 「あとは、キャストさんにも寄るからね」

淡乃 「そうだね。僕は昔からバイオレンス描写がスゴいんですよね(笑)でも、そういう表現も妥協なく出せるのが、ホームなんだよね」



Q:3 本作品の見どころを教えてください。


大井 「スゴい見所だと思うのは、極限状態に追い込まれた羊坂たちの、鹿乃ちゃんを襲うところ」

淡、柳 「ああ」

大井 「人間って、食を絶たれたら、平常では居られなくなると思うんだよね。もちろん、食以外の色んな五感の作用もあるけど、追い詰められた果てに人がどう変わってしまうのか、を描いているところが、前回同様、見所だと思う」

淡乃 「うんうん。T君は?」

T 「僕は、キャラクターたちの心情描写をキャストの方々がどう演じるのか、脚本の中に織り込まれているセリフ一つ一つに、その子の考えなどが垣間見えると思うので、そこに注目してもらえたら、より一層楽しんでもらえるんじゃないかと思います」

淡乃 「うん、良いコメント」

全員 「(笑)」

淡乃 「じゃあ、ちゃんはるは?」

柳瀬 「リメイクという事で、もっと全員が描かれるようになったところかな」

T 「うんうんうん」

柳瀬 「猫宮自身もより深くて。初演のラストは、彼女が悪くてこうなってしまったというフューチャーのされ方をしていたんだけど、今回はあくまで生徒の一員としてそこに居て、普通に幸せや救いを求めて、過ごそうとしていた新しい要素だったりとか。あと、猫宮の過去。初演は裏設定だったものが、今回表に出て来たから、あっ、私が初演でやってたことは浅かったんだな、って感じたかな。だから、どうしようもなさとかに対して、感情が出るだけじゃなくて、抑える表現とかが、今回の見所になったら良いな。少し大人になった演技をね(笑)!」

淡乃 「今、現実世界で苦しい事が割と続いていると思っていて。特にTwitterとかwebって逃げ道だったんだけど、今はTwitterもすごい現実と直結してしまっていて。携帯の画面を見ていてもどこにも逃げられないし、かと言って、現実を直視しても、逃げられないなぁっていう現状があるような気がしていて。だから今回、犬飼と猫宮は元々日常に居場所がない人として描いている。山の中で遭難して、社会と断絶された新しい世界が組み上がる中で、『ここが私の居場所になるんだ!』と思いきや、そこでも上手くいかず『やっぱりここも居場所じゃなかった、じゃあ私たちってどこを目指していけばいいの?』っていう話をしたくなった。見所というか、そこについて考えてみようよ。という投げかけの作品なのかもしれない。今までは楽しんで貰いたい、エンターテイメントとしてありたいという気持ちが強くて、話の中では解決している事が多かったんだけど、今回は解決していかない。劇場から出た後も、犬飼たちの日常やその人たちについて考えていかなくちゃいけない、みたいな事を示してみたい。今までの作品とは明らかに違うのは、スッキリ、スカッとしないというか」

T 「モヤモヤ?」

淡乃 「モヤモヤすると思う。そこが、ある種、僕のチャレンジでもあり、お客様にとっても考えてもらいたいことなのかもしれないかな。まあ、今さ、考えることって日常的に多すぎて、いろんな事を考えるって疲れるし、身近な事が精一杯で、遠くのことまで考えられないよ、って思うかもしれないんだけど。それでも、遠いところって僕たちが生きる世界の一部であって、どこかしらで関わってくるっていうことを頭の片隅に置いて欲しいし、演劇とか芸術とかには、そういう普段忘れがちなものに気付くとか、発見するとか、そういうのが大事な使命になってくる……と思うので(笑)」

柳瀬 「そうですね」

淡乃 「あと、初演の時に書こうと思ってダメだったアイディアとかを、ふんだんに入れて、せっかく2回目だから、キャラクターの線が変わっていることも、注目のポイントになるかなと思いますね」



Q:4 令和に入って、痛ましい事件や大規模な自然災害が目立つように思えます。この時代において、演劇はどうあるべきでしょうか?


大井 「最近感じるのは、教員が教員をいじめるってあったじゃん?」

柳瀬 「ああ、あったね。」

大井 「何でそんなことするんだって常々思うんだよね」

淡乃 「優しくないよねぇ」

柳瀬 「なんでギャルっぽいの(笑)」

大井 「(笑)まあ、イジメだけじゃないけど、そういう問題を演劇を通して、嫌だな、ダメだよなって感じてもらえる、気付きの一つとして、なったら良いんじゃないかな」

淡乃 「なるほどね。T君はどう?」

T 「演劇ってここ数年で2.5次元舞台が流行っていて、夢の空間や平和な世界みたいなものを求められる部分があるけども、フィクションであるからこそ、出来る事が沢山あると思って。現実逃避だけでなく、事件や災害などの現実に対してどう向き合って行くか、というシミュレーションの場として、発展していけば演劇界もより盛り上がるんじゃないかな、と」

淡乃 「元々それが本質だからね。快楽だけ突き進めてしまったら、レベルは落ちるよね」

T 「Twitterとか見ても、逃げ場の無いような状況だからこそ、逃げ場=オアシスみたいな環境でも、どこかしらで現実と向き合う側面も必要なんじゃないかな、って思うね」

淡乃 「そんなに現実に向き合わないといけないの、って言われたら、辛いことではあるんだけど。まあ、でも僕らは現実に生きているしさってね(笑)」

柳瀬 「私は、演劇は選べる娯楽、になるんじゃないかなって思う」

大井 「と言うと?」

柳瀬 「色んな種類があるじゃん。2.5次元だったら基本明るくて観たら元気になるみたいな。でも、我々がやっているみたいな、心が元気ない時に観たら、更に元気無くなるみたいな作品があったりとか。でも、それが選べる娯楽なんじゃないかな。その時の気分だったり、自分だけのオアシスを都内の劇場で見つけられるんじゃない?」

淡乃 「うんうん」

柳瀬 「選ばれるようにしていかないといけないしね、私たちの立場としても。間口は広くていいけど、高尚なものでありたいよね(笑)」

淡乃 「なるほどね。僕はね、そうだな…。ちょうど、台風19号が過ぎ去った日なんですけど、本当は今日前夜祭というイベントを予定したんですが潰れちゃって。世の中に大きな事件とかが起きた時に、イベントや舞台は無力だな…と思いましたね。余裕が無いと、こういう娯楽って楽しめないし、やっぱり考え事って出来なくなるなって。…その中で演劇が出来る事はなんなのかって話だけど、楽しませる事って、技術が進歩した事により増えたと思うんですよ。例えば、元気がない、じゃあNetflixやAmazonプライムで映画やアニメをみようとか、Spotifyで好きな音楽を聞こう、とか。秒で元気になれるものを」

柳瀬 「YouTuberさんとかね」

淡乃 「そう。簡単に娯楽が手に入るようになった時代で、わざわざ足を運んで、時間を使って、予約してもらってまで、やるべき事は何か?ってこと考えちゃうな」

柳瀬 「だから私がさっき言ったように、選べるようにしないとダメだよね。内容がわからないものをさ、見に行けないじゃん。『今、私、心が元気が無いから観に行きたいけど、これは元気になれるのかな…?』っていう人は居ると思うんだよ」

大井 「そうね」

柳瀬 「そう。トラウマになっちゃう人も居るだろうし」

淡乃 「そういう点では、今作はゴメンなさいなんだけど(笑)」

大、T 「(笑)」

柳瀬 「でも、情報で出しているから!あんまり良くない作品だって。いや、あんまり良くない作品ってのもアレだけど(笑)」

大井 「語弊が(笑)」

柳瀬 「心にビタミンを!っていう作品ではないからね」

淡乃 「そうだねぇ」

柳瀬 「だから、情報が大事だっていう話ですよ(笑)」

淡乃 「僕の作劇って2.5次元のブームに乗っかったところがあって。百合が好きで、アニメも好きだから、キャラクター文脈の中でお芝居を創って行こうと思って。でも、演劇だから人間らしいところも見せたい、ということで、キャラクターが人間をやるっていう感じのお芝居をずっと創ってきた。だから、外郭はアニメ寄りだったんだよね、最近まで。でもさっき言った通り、わざわざ足を運んでもらう為には、演劇が演劇として意味があるものをドンドン出していかないといけないんじゃないと思うようになって。演劇でしか獲得出来ない体験だったりとかを突き詰めていくほうが、逆に今の時代にあっている気がするんだよね」

T 「メッセージ性はやっぱり織り込み続けたいよね。」

淡乃 「そうだね。あと、空間っていうのかな。イタリアの演出家ロメオ・カステルッチさんが、たしか『劇場は安全に恐怖を体験出来る場所だ』的なことを言っていて。ロメオさんは劇場で車を落としちゃったり、炎を燃やしちゃったりするスゴい演出をする人なんだけど(笑)でも、目の前で火が燃えていたり、実際に起こっている恐怖ってありありと伝わるわけじゃないですか。それって、他の媒体じゃ出来ないことで。いくらVRが発達しても、目の前で起きている事の質感や空気感ってものは劇場でしか存在しないなって思っていて。今回のクルパはその点、遭難するという恐さは伝わってくると思うし、そういう演劇でしか体感できないものってのは目の前で起きると思う。という意味では、とても価値があると思うし、実験というか、逆にクルパに戻ってきた意味があるなって感じているかな。まだ、僕もどういう演劇を創っていけばいいかわからないし、明確な答えも出ていないけども。かといって、昔のような演劇に戻ろうよ、というわけではなく、今まで培ってきたキャラクター文脈的な演劇の中に演劇の本質をどこまで入れられるのか、というのが、これから僕たちが創っていくものとしては正しいんじゃないかな」


※1:禽獣のクルパ初演が上演されたのが2016年1月。約3年ぶりのリメイクとなる。

※2:2018年7月に上演されたfragment edge No.7となる作品。復讐から始まる壮大なアラビアンの世界を描いた。